湊かなえ「往復書簡」考察、感想、ネタバレ [感想]

やはり湊かなえ氏のミステリーは中々面白い。興味深くてわりと読みやすいものが多い気がする。「往復書簡」は中編ほどの長さの作品が3作品収録されている。その3つの作品に共通している手法というのがまさにタイトルの「往復書簡」だ。手紙のやりとりのなかで物語が進んでいき、徐々に物語が明らかになっていく。
往復書簡

湊かなえ氏の作品の中のキャラクターはすごいよくできてると感じた。こんな短い作品の中でもそれぞれの性格や人物像が頭の中にしっかり浮かんでくる。というのも、著者は本を執筆し始める前にキャラクターの「履歴書」を作成するのだそうだ。なるほど、あのキャラクターの精巧さはここからきていたのか。

しかし、ミステリーとして中々面白い作品だと思う。単純な一つの要素である「疑」を優しく私達に問いかけてくる。だから読みやすい。「疑」の問いかけは小説において重要な一つの要素であると思う。ミステリー探偵小説などで感じるあの感覚だ。犯人は誰なのだといつの間にか問われているのは私たちなのである。レベルとしてはそんなにきつくない問いかけが3つの中編として読めるので、サラッと読んでしまえるのである。
優しくない「疑」の問いかけとは例えば「ドグラ・マグラ」だろうか(笑)一筋縄ではいかない作品だったのは間違いない。
しかし、なんとなくオチが読めてしまえそうな、そんな話も3つの中に確かにあった。なんと言えばよいのか、こんなオチにすれば面白いだろというのがなんとなく読めてしまったのがあって、「過程」までは流石に想像がつかなかったが、「結果」はある程度想像できた作品が一つあった。それがすこし残念と言えば残念だった。どの作品かは言わないが・・・。

二十年後の宿題
で、今さらだがこの本には「十年後の卒業文集」「二十年後の宿題」「十五年後の補習」の三作品がある。私が一番気に入ったのは「二十年後の宿題」だろうか。この三作品で唯一後味の良い作品だから、というわけではないが・・・。これは最初と最後で見えなかった糸が見事に繋がるのは恐れ入った。
あらすじはこうだ。「38年の教師生活を終えた竹沢真智子は昔、ある事故に巻き込ませてしまった生徒6人のことが退職後も気になっていた。そこで昔の生徒にその6人の生徒全員にある封筒を渡してほしいと頼んだ。彼が大場淳史である。彼は封筒をそれぞれ元生徒達に渡し、その報告を竹沢先生にしていくが・・・」
と、まぁオチを書いたらつまらないからこのくらいにしておく。しかし、この「竹沢先生が大場に手紙を渡させる真意」というのが非常に面白かった。灯台もと暗し的なね。三作品では一番面白い仕掛けが施されていたのではないかな。また、それぞれのキャラクターが作者の偏見の元、非常に上手く描かれている。そして、作者の偏見はある程度私達の偏見でもある。共通認識というか、「こういった立場の人間の像というのはやはりこんな性格だろう」というキャラクターが多いので私達もシーンを想像しやすいのである。湊かなえ氏のキャラクターには非常に学ぶところが多いです。直木賞とか取ったりしないのだろうか。
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プー

こんにちわ。
プーと申します。
作家志望との事、ご期待申し上げます。
「15年後の補習」のラストについていかがお感じですか?
最後にやってきたのが刑事じゃないかと思う私は変人でしょうか?

by プー (2011-08-07 16:02) 

ぷるたぶ

お返事が一ヶ月近く遅れまして申し訳ないです。
私は普通に警察の人間だと思いました。最後に意味ありげに、ああいった演出を施したのは、やはり読者側の深層意識か、或いは表層意識に語りかけるような狙いがあるのだと思います。
なので、最後にやってきた人を刑事というのは至極当然の事だと思いますよ。

ここからはちょっと別の話です。
あえて別の結論を求めて、最後にやってきた謎の人物を万里子としましょう。
この話は別に物語に直接関与するものでもないので、気軽に読んでみてください。
最後の人物を万里子とすると、何故万里子はそこにやってきたのか、その理由付けを自分の中で推理することになります。
その理由を自分なりに考えると、新たな発見があるかもしれません。もしかしたら、純一が知らない新しい真実が隠されているのかもしれないし、それを純一に伝えるために万里子は赴いたのかもしれない。
勝手な妄想に過ぎませんが、私達読者は自由に本を読んでもいいんじゃないかなぁ、と最近思うのです。
by ぷるたぶ (2011-09-02 14:33) 

プー

こんばんわ。こんにちわかな?
確かに読み直してみると、P264の~時効~のくだりや、11月25日の万里子の手紙が別れを告げて「自首」を含ませていることから、刑事が来たことが匂うのです。正義感の強い万里子ですから。
湊かなえの作品とすると、これが正解の気がします。
でも大家のおばさんが大声で名前を呼ぶのは、愛する人が尋ねてきたとしたほうが素直な気がしてきました。
いかがでしょうか。
by プー (2011-09-10 00:23) 

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