西村賢太「苦役列車」考察、感想、ネタバレ [感想]


苦役列車

なんというか、まず、芥川賞について。
ついこの間の火曜日に芥川賞の発表のニュースがやっておりまして、なんとなく去年の同じこの時期の発表を思い出さずにはいられませんでした。
今からちょうど一年前に発表された受賞作は朝吹真理子「きことわ」と西村賢太「苦役列車」であり、そのあまりにも対照的な人格、作品などがそれなりの話題を呼びました。そして今年も似たような経歴の対照があり、どちらも男性といえど、その記者会見からは二人の人間には大きな違いが見てとれました。特に田中慎弥氏の方は高校卒業以来まともに働いたことは一度も無いとか。そんなことや、「私が取って当然」発言もあって話題をかっさらった形となりました。
去年の芥川賞についても似たようなことが言えて、どちらかと言えば西村氏に話題が集中した感があったような、ないような。とにかく無頼派的な人間に興味が集まってしまうのは仕方ないことなのかもしれないと感じることが最近あります。私個人として、世論の興味は小説ではなく小説を書いている人にある、ということにはどうにも多少の反吐が出ることもあり、この話はここらへんで。

「苦役列車」というのは日雇い人足で生計をなんとか維持する十九の青年、貫太のお話です。なんとなく気分が乗って割と一気に読んでしまいましたが、これはどうして中々面白かったです。何故一年も初版を積んでいたのだと自分を叱責すべきところですが、そんなことはとりあえずおいておいてですね、とにかく自分のスタイルというものを確立しているというのが読み手にもすぐ伝わってくるような文章でした。
物語自体は非常に箱庭的である感じがしました。港湾人足の仕事場、三畳間の部屋、飲み屋、ソープなど、社会の底辺的背景をひたすら丁寧に書きだして、リアルさか、或いは立体をしっかりと見せてくれます。その丁寧さというのは、やはりディティールにまでこだわっているということがあると思います。どこを読んでも西村氏のこだわりというか、内発的なものから湧き出てくる文章というのはとにかく凝りに凝っている、と思わせてくれます。
空の煙草、隣の男の朝飯、コップ酒……実際読んでいただければこんな感じの言葉が非常にリアルに感じて仕方なかった。
話というのは人足の仕事場で出会った日下部という専門学校生に対しての感情の移り変わりを主に描いていて、その距離感というのも見事に感じ取れて、こういうのが小説の一つの醍醐味だよなぁ、と思うのです。
同じ仕事場で働き始めて、二人は出会うのですが、初めはよそよそしく、そして少し共通点を見出すとそこから一気に仲良くなる。貫太は人と話すのが楽しいのだろう、日下部との距離が縮まったとなると調子に乗り始めて、やがて今度は日下部の方から距離を置き始める。そんな折に日下部と日下部の彼女と貫太の三人で食事をすることになる。そこで貫太のenvyははっきりとしたものなり、妬ましくなった貫太は酷い罵倒を二人に浴びせかける。
envyというのは妬みという意味です。別に英語を使ったことに深い意味は無い。貫太は自身の中卒という経歴をやはり忌み嫌っており、他人の高学歴(少なくとも貫太よりマシな学歴)を認識すると僻みの反動としてそういった悪口がでてしまう。
つまり、そんなお話。

そーいやこの話にはパチンコとか競馬的な賭けごとが全くからんでこないよなって思いましたが、やはりそれは西村賢太氏の私小説であるからでしょうね。貫太の趣味はやはり読書なのです。

さらにそーいや映画化するんだって。前田敦子を脚本にねじ込んだらしいが、それについては西村氏はどうなんでしょう。お金入るからいいんでしょうか。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

ぷるたぶの今読んでる本 ぷるたぶの最近読んだ本

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。