夢野久作「ドグラ・マグラ」考察、感想、ネタバレ [感想]

歴史的怪作である。物語の切り口は精神病院の一室で一人の青年が目を覚ますところである。やがて病室には若林という大学の教授が現れる。そして大学の研究室で青年は自分が誰かを探し始める。

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)


ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)

この話の確信はやはり「この物語の主人公は誰なのか」ということで、この青年が主人公なのか?ということを物語の中で私は何度も左右に揺さぶられた。普通物語というのは遠くから徐々に確信に迫っていくが、この作品はわりと中盤に入る前に布に隠された確信の目の前に立たされる。そして終盤までその布を取り去るのか、取り去らないのかと、随分焦らされる。目の前にニンジンをぶら下げた馬の気分で読み解く。早く真実が欲しいという意味で。このあたりを考えると探偵小説に分類されることがあるのも納得がいく。

この物語に感情移入する人はとても奇妙な気分を味わう。たぶん今までに味わったことのない手ごたえを得ると思う。その理由の一つにこの物語のほとんどは研究室で進み、そして完結してしまうからだ。それにも関わらず、文庫では上下巻というボリュームである。研究室で青年は自分が誰なのかということを資料を読んで調べ続ける。この「ある一か所で物語は進む」ということはつまりはどういうことか?答えはこうである。「ある一か所で物語は進む」とはまさに「読者自身」だ。読者はきっと「自分の部屋=研究室」で青年が誰なのかという答えを求めるのである。

私はこの作品に胸をえぐられた気分で読み終えた。読み終えた後、しばらくベッドから起き上がることができず、ため息を何度もついた。これはやはりとてつもない傑作であるとともに怪作であると思う。

けれどもこの作品の評価は様々だ。というか、内容が一部奇怪すぎて最後まで読めない人が多いのである。わけのわからない歌を数十ページに渡って続くそれは確かに他の小説を逸脱していると思う。だが、それを含めて読破した人はこれがいつまでも心の中にこびりつく作品であるということは読んでみるとわかると思う。
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